新築中心の高度経済成長モデル依存で増え続ける空き家

 今泉 太爾 , コラム記事

◆国土の長期展望

2011年2月に「国土の長期展望」という国土交通省が示した非常に優れた資料があります。 ご興味のある方は是非チェックしてみてください。以下のURLよりダウンロード可能です。

「国土の長期展望」中間とりまとめ

「国土の長期展望」によると日本の総人口というのは、2050年には約9,500万人と、現在から3,000万人以上大幅に減少してしまうとさています。しかも、これはもうすでにほぼ確定しており、もし人口減少に対して対抗するのであれば、1980年代位から少子化対策をしっかり取り組んでおかなければなりませんでした。世帯数に関して核家族化が進んでいるとは言え、2015年から2020年頃から減少していくということが予想されています。 今までの日本は、新築中心の高度経済成長モデル。 高度経済成長期に日本中で住宅や道路、橋などを作り続けてきました。この今まで作ったインフラは老朽化してきますので、維持するためにはリフォームしなくてはなりません。ところが、この維持コストだけでも2030年以降は、今まで新築+維持にかけてきた予算以上にコストがかかってくるようになり、全部は維持することができなくなります。つまりこれから行われる事は、どの地域を残し、どの地域を捨てるか、を決めなくてはならないタイミングに差し掛かっています。

◆新築中心の高度経済成長モデル依存で増え続ける空き家

日本の住宅産業は未だに新築中心の高度経済成長モデルから脱することができず、減ったとは言え、毎年約80万戸以上の住宅を新築しております。高度経済成長モデルで新築住宅を続けてきた結果として、作りすぎた住宅がどんどん余って溜まり続けています。今現在では5,000万世帯数に対してストックが5,700万戸以上、約800万戸近くの住宅が空き家になっています。住宅が余っているのに作り続けている状態というのは、前回のコラムでもお伝えした通り、ワルラス的調整状態であり、地域の資産価値は下落し続けることになります。
◆需給バランスをとるドイツの都市計画

一方ドイツの場合、需要と供給のバランス合わせるために、都市計画等で住宅の供給量をしっかりコントロールしています。2009年現在の世帯数4019万世帯に対して、住宅のストック数は4,018万戸。住宅は余っていません、というよりも余らないように行政によってコントロールされています。新築住宅は必要な場所だけに建設させる、つまり人口動態を確認しながら、世帯数と人口が増加している地域でのみ新築させるようにしています。 そして、その際に単純に新築の住宅数を制限するだけの政策をうってしまうと、建設雇用が激減してしまいます。そこでドイツでは新築住宅を減少させるタイミングと合わせて、リフォーム需要を上げていくような政策を同時に行っています。例えば2000年前半頃からは、新築住宅に対しては補助金や金利優遇、金利免除などの支援策はほぼ廃止されています。非常に省エネ性能が良い住宅にだけ、ほんの僅かな利子免除があるだけ。一方、リフォームの場合は補助金も利子免除も金利優遇も非常に手厚くなっています。リフォームの場合も省エネ性能が上がるほど、補助金や利子免除が増加します。しかも新築よりも、リフォームローンの方が金利も低くなっています。 このドイツの住宅政策は、古典経済学的にはマーシャル的調整というモデル。需要と供給をバランスさせることができれば、価値が安定する。つまり、世帯数と住宅ストック数のバランスをとることによって、その地域の不動産価値を安定化させているのです。価値が安定化していると、住宅の所有者は資産価値をさらに向上させるため、リフォームに対する意欲が非常に高まります。その結果、ドイツと日本の2010年度の建設投資額を比較してみると、日本よりも人数も世帯数も少ないドイツの方が、建設投資額が大きくなっています。地域の不動産価値を安定させ、同時に建設投資額を増加させるには、現在のような新築中心の高度経済成長モデルから、ドイツのようなリフォームを中心とした先進国モデルへの転換が急務となっています。

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