「省エネリフォーム推進のカギは?」

 永井 宏治 , コラム記事

ドイツの建築研究所であるエコセンターNRWの研究員で株式会社日本エネルギー機関 (私、中谷が代表)の取締役である永井宏治氏にドイツの省エネ改修の現状と問題点について解説いただきます。 省エネリフォーム推進のカギは情報 省エネリフォームと言うと、当たり前だが「省エネ効果」にのみ着目されがちだ。確かに最も重要な要素だが、「省エネ」が全ての判断基準であるようにとらえられることが多々ある。これはドイツ連邦政府が目標としている省エネリフォーム率向上を逆に妨げる要因のひとつとなっている。 政府として省エネリフォームを勧める根拠は、ざっとあげるだけでも

◆経済的メリット

冒頭登場した「省エネ」はこの経済メリットのカテゴリーに分類される。現時点でのランニングコストを削減するだけでなく、将来的に上昇するリスクを持つエネルギー価格、すなわち光熱費を小さくすることが目的となる投資の一種と言える。 省エネリフォームによる不動産価値アップも「経済的メリット」の一つだ。建築物への投資額のうち新築が4分の1となり、既存中心社会となったドイツでは省エネリフォームをした、あるいは燃費のいい新築が市場での目玉となってきている。視点を変えると、省エネリフォームされていない建築物は今後もさらに賃貸・売買が困難となるのとも考えられる。賃貸業者の立場からすれば、温熱環境の悪さや光熱費の高さから空家率が上昇し、収入が減少することを防ぐ手段のひとつでもある。

◆建物的メリット

建築物として評価すると、断熱・遮熱対策により快適性のみでなく、躯体にかかる温熱負荷を軽減することや湿害を防止することにより躯体自体の耐久性も増加する。その他、適切な換気設備を導入することによって、建物使用者の対応によっては効率が著しく悪くなる開口部の開閉に頼らず室内の空気を最適な状態に保つことも可能となる。

◆政治的メリット

最後に政治的な観点から重要となる根拠としては温暖化防止、資源節約、国内の雇用促進があげられる。 これまでに述べた省エネリフォームの利点をみると、連邦政府が目標に掲げた「ストックの省エネ改修目標 年間2%のリフォーム率」を軽く達成しそうだが、残念ながら現状は1%弱にとどまっている。その原因はどこにあるのだろうか。 その答えは、最初に指摘した「省エネ」という言葉にとらわれすぎているからではないだろうか。言い換えると経済性が保障されなければ建物の所有者がリフォームに踏み切らないという反面、経済性の計算が頭の中で間違っている、あるいは間違った情報源から伝えられているということが背景にある。 また、経済性以外の効果という情報も欠如していることが多い。省エネリフォーム対策の経済性とは簡単に言うと、投資したコストが何年で回収できるかということである。例えば外壁への湿式断熱が12000ユーロかかるとすれば、それによる年間の暖費用削減量800ユーロで燃料価格が一定していれば、投資回収期間は15年となる。この期間の速い遅いを決めるのは当然所有者であるが、ドイツ国内の省エネリフォームアドバイザーが顧客のサポートする時は、投資期間が20年程度までであれば経済性はあると判断して話を進める。それよりも短ければなお良いということになる。 湿式断熱の経済性を「15年もかかるのなら必要ない」と言わせるか、あるいは「12000ユーロの投資で、エネルギー価格が上昇しなくとも20年間の年間利率が1.45%で4000ユーロのプラス」と思わせるかの違いはその計算結果の伝え方次第である。また、12000ユーロのうち大抵は半分程度が足場等の資材、人件費、仕上げ・塗装料となっているため、省エネ目的で支払うのは6000ユーロ程度となる。ゆえに、外壁の修復が必要な状態であればそのついでに利益率5.03%で10000ユーロの収益という考え方もできる。

さらに、「家の中が快適になる」、「不動産価値があがる」といった理論で押せば容易にリフォームさせることができるようにも思える。 しかし、消費者の全てが正しい判断材料を得ているわけではない。こういったアドバイザーの仕事は無料のものもあるが、通常のものであれば一戸建てでおよそ800ユーロ、そのうち400ユーロが補助金で負担されるため、個人での負担は400ユーロである。これを短時間のアドバイスと調査報告書に支払う価値があると認識すれば良いのだが、情報だけに大金は払えないと思う消費者も少なくない。その場合、近隣の工務店に依頼するという流れになり、運が悪ければ悪質な型にはまってしまう。 よく耳にするのは、窓を高性能なものに取り替えるだけで光熱費を30%削減できるといったような話である。理論的に考えて、ドイツの一般的な住宅では躯体が原因となるエネルギーロスが70%、残りは換気、温熱供給設備の効率といったものとなる。断熱が特にされていなければ、躯体から熱損失のうち20%程度が開口部から発生している。単純に考えても全体で15%にも満たない。高性能窓を使用しても熱損失が0になるわけではない。これでは高額な窓を入れても光熱費削減効果が小さく、「省エネリフォームなんて高いだけで意味がない」といった意見が消費者から出てきてメディアにここぞとばかりに取り上げられるのも無理はない。