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エネルギーシフトが進むドイツにおいて電気で熱は正論か? その2

◆2022年までに原子力、2050年までに化石燃料を必要としない社会へドイツではエネルギーシフトが進んでいます。エネルギーシフトとは、2022年までに原子力を、2050年までに化石燃料をエネルギー源として必要としなくなる社会を推し進める一大政策、一大社会運動、一大経済改革のことを指しています。具体的には2050年までにドイツ社会が必要とするエネルギーを省エネによって半減させ、残り半分の最低限必要なエネルギーは、再生可能なエネルギーによってまかなうという内容です。

すでに、電力消費量における再生可能エネルギー発電の割合は、2012年の統計では21%になり、1990年の水力発電による3%とは隔世の感があります。しかし、その影響で、エネルギーについての定義そのものが、再度議論を要するような時代へと突入することになりました。複雑な話になりますが、箇条書きで状況を説明してゆきましょう。

・もともとドイツがエネルギーシフトをはじめた大義名分は、欧州における気候温暖化対策の議論に基づいています。つまり、原発はもとより、化石燃料も必要でない社会を形作り、温室効果ガス(とりわけCO2)の排出量を2050年までに80~95%削減(90年比)することが目標とされています。

・こうした議論の中、EU内でのエネルギー、省エネなどに関わる法整備では、CO2を原単位とした構造が出来上がりました。

・例えば、すべてのエネルギーに関わる政治的な、あるいは法的な目標値は、最終的にその場で消費される「消費エネルギー」、あるいは「最終エネルギー」ではなく(あるいは並べる形で)、その消費されたエネルギー量を確保するために必要であったすべての投入されたエネルギー量を取りまとめた「一次エネルギー」に表示・制度が作られて
います。

・異なるエネルギー種を消費した際に比較できるように、その「一次エネルギー」を計算するためには、CO2を元にした換算手法がEU政令で作られています。例えば、ドイツにおいては、ガソリン、軽油、都市ガスなど化石エネルギー資源を精製したものを使用した際には、一次エネルギー換算係数は1.1に、つまり、その場で1kWhを消費した場合には、それを採掘し、精製し、それをそこまで運んで準備するために追加で0.1kWhのエネルギーが社会において消費された(CO2が排出された)とみなすわけです。

・ちなみに薪ボイラーや木質ペレットなど、木質バイオマス資源の場合の一次エネルギー換算係数は0.2です。チェーンソーで伐倒、集材し、運搬し、加工・乾燥、配達するのに、その木の持つエネルギーよりも、CO2で0.2分が追加で排出されたと考えるわけです。これらは、EU政令で指定された計算方法に基づき、ドイツ工業規格や〈省エネ法〉、〈省エネ政令〉などで決められています。

・問題は電力です。以前は、ほとんどの電力が石炭と褐炭で作られていたため、発電所の熱効率などまで加味し、ドイツにおける電力の一次エネルギー換算係数は3.7でした。火力発電所の熱効率が多少なりとも改善され、原子力や天然ガスによる発電割合が増加すると、こ
の一次エネルギー換算係数は、3.3となりました。時代の移り変わりとともに、この数字は3.0となり、2.7となり、2009年の〈省エネ政令〉の大改正時には、再生可能エネルギーの割合増加のため、この数字は2.6と定義されています。

・ここまでは、過去の話です。電気を1kWh作るために、その約3倍の熱エネルギーを必要とすることから、「バターをチェーンソーで切る」のごとく、電力は高級なエネルギー源であり、30~60度ぐらいの低温での熱利用には使用しないという社会の合意が出来上がったわけです。それゆえ、蓄熱暖房機が気候温暖化対策の上では悪とされ、排除の時代がはじまったわけです。

◆再生可能エネルギーの普及とともに低下する電力の一次エネ換算係数

・しかし、全体の電力の1/4を再生可能エネルギーでまかなう時代が到来します。ドイツ政府は2020年までに消費電力のうちの再生可能エネルギー発電の割合を35~40%とする目標を打ち立てており、それはこれまで順調に進行しています。来年改正される予定の冒頭でも
お話した〈省エネ政令〉改正の議論では、電力の一次エネルギー換算係数は、2013年に2.0に、2016年には1.8にまで低減する予定です。

・すると、まず、APFで3.0程度の電力ヒートポンプを使用する場合には、高級なエネルギー源である電力であっても、30~60度ぐらいの低温での熱利用をすることは、気候温暖化対策になるのではないか?、逆に天然ガスなどを直接燃焼させるボイラーによるセントラルヒーティングよりも、電力+ヒートポンプの床暖房のほうを推進するべきではないかという議論が出てきました。

・同時に、冒頭の蓄熱暖房機の禁止措置の解禁にまで話は広がります。蓄熱暖房機はヒートポンプと異なり、1kWhの電力を1kWh以上の熱には変換しませんが、電力需要が小さく、太陽光や風力発電が活発な時間帯に、スマートグリッドなどを活用して、ここに熱の形で「蓄電」しておくことで、ドイツの目下の懸案事項である系統安定化対策になるのではないかという議論です。電力大手に言わせると、蓄熱暖房機までが(これまで自らが散々反対してきた)エネルギーシフトの推進に貢献するわけですね。

◆2020年蓄熱暖房機の解禁で改めて思うこと

ということで、ようやく話がつながりました。どちらにしても、反発が大きすぎるため今すぐに蓄熱暖房機が解禁されるわけではないものの、もう少し先の時代のために、ドイツの4大電力大手は総掛かりでこの抜け道を模索していました。その結果、ロビーの圧力によって連邦議会の建設委員会の保守勢力が手なづけられ、冒頭の2020年に蓄熱暖房機の解禁の決議へとつながったわけです。

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さて、さて、このコラムのオチですが、そんなつまらないことをグダグダと議論しているように見えるドイツの国会においても、エネルギーシフトの本筋は「省エネ」だというお話。ドイツには新築や改築の際、最低限達成しなければならない、つまり指定された性能以上の躯体でないと新築許可などがおりない罰則付きの省エネ性能のミニマムスタンダードが存在します(省エネ政令によって指定)このミニマムスタンダードは、今後も年々より一層厳しくなり、現在の省エネ政令での燃費基準は(日本式の計算方式がないので無理やりながら)ざっとQ値に換算してみると1.3前後。これは2014年に12.5%、そして2016年にはさらに12.5%厳しくなる予定ですから、2016年以降のドイツではQ値1.0以下の建物しか作られなくなります。また、2021年1月1日からは、EU内ではゼロ・エネルギー建物以外の新築が認められなくなりますから、躯体性能の上でもQ値1.0を大きく下回る建物以外は、住宅用途でも、非住宅用途でも、建設は禁止されることになります(おおよそパッシブハウスのレベルのみとなる)。つまり、建物の躯体性能の向上、省エネさえきっちりやっていれば、そもそも必要となる暖房エネルギーはそもそも些少なことであり、こうした設備について重箱の隅をつつき合っている政党&ロビー談義を半ば呆れつつも、楽しんで見ていられます。

日本では、建物の温熱の機器や設備のお話は、すでに十分躯体性能が向上してからでないと議論する価値がそもそもありませ
んし、電力の系統安定化やスマートグリッドのお話は、電力の2、3割をすでに新エネで供給できるようになってからでないとこれまた議論の意味がありませんので、このようなドイツのレベルのお話は、今のところお楽しみいただけません。近い将来に、そんなレベルの話が日本でもできるようになることを願いつつ。

この記事を書いた人

村上 敦
ドイツ在住の環境ジャーナリスト。環境コンサルタント。日本で土木工学部、ゼネコン勤務を経て、環境問題を意識し、ドイツ・フライブルクへ留学。フライブルク地方市役所・建設局に勤務の後、2002年から独立し、ドイツの環境政策、都市計画、エネルギー政策を日本に紹介する。 多様なメディアへの寄稿と企画協力、環境関連の調査、自治体/企業への環境コンサルティング、講演活動を続ける。 南ドイツの自治体や環境関連の専門家、研究所、NPOなどとのネットワークも厚い。

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